「奥さんに嫉妬してるんでしょ?」
そう言われるたびに、なんだか違うと思っていた。
もちろん最初は嫉妬もあった。
一緒に過ごせる時間。
家族として隣にいられること。
私には手に入らない毎日。
そういうものを羨ましいと思ったことはある。
でも、ある日から感情が変わった。
「羨ましい」じゃない。
「気持ち悪い。」
自分でも驚くくらい、その言葉が一番しっくりきた。
彼は毎日「大好き」と言ってくれる。
将来の話もする。
「離婚するつもり。」
「もう少し待ってほしい。」
そんな言葉を何度も聞いてきた。
信じたい気持ちもあった。
でも、その一方で彼は今日も家に帰る。
奥さんと同じ空間で過ごし、家族として生活している。
その現実を想像した瞬間、胸が苦しくなるんじゃなかった。
ただ、気持ち悪かった。
私は「負けた」と思ったわけじゃない。
「奥さんの方が選ばれてる」と感じたわけでもない。
そういう比較ですらなくなっていた。
好きな人が、別の女性と夫婦として暮らし、食事をして、同じ家で眠る。
その事実そのものが受け入れられなくなった。
恋愛感情よりも、生理的な拒否感に近かった。
不思議だった。
以前は耐えられていたことなのに。
「今は仕方ない。」
「子どもが小さいから。」
そう自分に言い聞かせていた。
でもある日、限界がきた。
考えれば考えるほど吐き気がする。
食欲もなくなる。
夜も眠れない。
「嫉妬してるんだね」と言われても違う。
私は誰かに勝ちたいわけじゃない。
ただ、この状況自体を受け入れられなくなっただけだった。
その日初めて気づいた。
私は彼を失うことが怖いんじゃない。
この関係を続ける自分に限界がきていたんだ。
恋をしているはずなのに、幸せより苦しさの方が大きい。
会えないから苦しいんじゃない。
奥さんの存在があるから苦しいんでもない。
「この状態がずっと続くかもしれない」
その現実が、私の心を少しずつ壊していた。
恋愛にはいろいろな感情がある。
好き。
寂しい。
会いたい。
嫉妬。
でも、そのどれにも当てはまらない日がある。
私にとってその日は、
「気持ち悪い。」
そう思った日だった。
その瞬間、私は初めて、自分の心が限界を迎えていることを認めた。

